「移動教室」で教育を変える!~伊達市の挑戦
配信日:2012年9月10日
東京電力福島第1原発事故による放射能汚染に苦しむ福島県伊達市。放射線量が年間20ミリシーベルトを超えるおそれのある特定避難勧奨地点も点在する。その伊達市が、今年5月から、小学校5~6年の小学生を対象に、教育の場を一時的に県外に置く「移動教室」を開始した。子どもたちを迎入れるのは新潟県見附市の小学校。OurPlanetTVでは、6月下旬に実施された伊達市立富野小学校の移動教室に同行し、その様子を取材した。
北部に位置する富野小学校は、比較的、線量の低い地域にあたる。しかし、去年1学期は、屋外に出ることはできず学校のプールも中止。1学期に1回だけ、市内の屋内プールに行ったのが唯一の水泳の授業だった。
今回、移動教室に参加したのは、5~6年生7人。3泊4日の日程で、見附市立の田井小学校に滞在した。このプログラムは一般的な臨海学校などとは異なり、特別な課外活動はほとんど行わない。宿舎からランドセルを背負って学校に通い、勉強をするのが日課だ。
受け入れ先田井小学校は、児童数35人。児童数32人の富野小学校と同規模の学校だ。竹内政俊校長は、「見附市は様々な災害にあっていて、子どもたちも皆、影響を受けている。だから、子どもたちは、今回の震災でも何か被災地の役に立てればと思ってきた。今回の話は、その気持ちを実現できるよいきっかけ」と話す。また、他校の児童を受け入れることに対する負担感はないかとの質問に対しては、「特に負担を感じるということはない。むしろ、先生も生徒も楽しみにしていた。大勢の友達が増えることや、こうした経験は、子どもたちの心の成長に役に立つ」と前向きだ。
伊達市と見附市の間を取り持ったのは、NPO法人地域交流センターだ。去年の夏、関係者が伊達市を訪問。長袖、マスク姿で、外で遊べない子どもたちを目のあたりにし、「子どもたちの笑顔が見たい」と放射線量の低い地域に場所を移しての「移動教室」を提案。文部科学省が公募していた「復興教育支援事業」に採択され実現した。
今年、伊達市内の小学校で移動教室に参加する学校は21校中9校。10月までの期間中、約170人が訪れる予定だ。残りの3分の2の学校は、カリキュラムなどの問題や受け入れ側の宿泊施設の規模に制約があり今年度の参加を見送った。
伊達市教育委員会の湯田健一教育長は「伊達市は震災の影響、放射能の影響で、大きなマイナスを受けた。しかし、これをどうにかプラスにしたい。体験学習が成果があることはこれまでもわかっていた。来年度以降も継続し、新しい教育を作りたい」と意気込む。
また富野小学校の宍戸仙助校長は「今回の震災で、学校がどんなことを求められるか分かった。これまで公立学校の教師は、待っていれば生徒が来てくれると思い込んでいたがそれは違う。教育権を持っているのは子ども。学校に行くことも、給食を食べることも、子どもたちとその保護者に選択権がある。内部被ばく、外部被ばくをどう減らせるか、そういうことに一緒に考えていくのが学校であり、あるべき教育だと思う」としたうえで、7泊以上の滞在まで広げたいと持論を展開。「よく震災までに戻ろうというが、震災前の教育がかなずしも100%ではなかったはず。この移動教室は教育的な意味がある。良いチャンスをもらった」と期待を寄せる。